『
JB PRESS 2012.12.04(火) 川嶋 諭:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36491
日本が中国・韓国より決定的に優れているわけ
ノーベル賞・フィールズ賞受賞で圧倒している歴史的背景
歴史というのは、国と国民に極めて大きな影響を及ぼす。
古くは中国文化圏の影響を強く受けながらも、日本は中国や韓国とはかなり違った文化を形成してきた。
面白いことに、その違いの典型例が数学にあるという。
海を1つ隔てただけで、実利的な算術の世界にとどまった社会と、純粋数学の世界へと発展していった社会に大きく分かれた。
世界の中で日本人ほど数学が好きな国民はほとんどない。
これは私たちが誇っていい事実であり、その背景には歴史がある。
なぜ日本人は数学が好きになっていったのか。
また長い年月の間に私たちの中に埋め込まれていった数学DNAをさらに強化して日本をさらに強い国にするにはどうすればいいのか。
今回は数学を題材にした異色対談を実現した。
サイエンスナビゲーターの桜井進さんと花まる学習会を運営する高濱正伸さんの2人である。
ちょうど数学に関する本を出版されたのを機会に、日本人と数学について話し合ってもらった。
■日本人は世界に冠たる数学大国の末裔である
川嶋:今年のノーベル賞では京都大学の山中伸弥教授が医学生理学賞を受賞して、日本中が盛り上がりました。
理科学系でこれまで日本人は15人(米国籍の南部陽一郎氏を除く)が受賞していますが、中国人や韓国人の受賞者はゼロです。
こう見ると、いろいろ言われながらも日本の教育水準は世界的にもいい線を行っているのかなという気がするのですが・・・。
桜井:ノーベル賞とは別に、数学の分野にはフィールズ賞があります。
フィールズ賞は4年に1度、しかも40歳以下という条件で一度に4人しか受賞できません。
そして人生で1回だけです。
天才中の天才しか取れない。
その賞を日本人は3人が受賞しています。
ちなみに中国、韓国はゼロです。
つまり、ほとんどの日本人は知りませんが、日本は世界に冠たる数学大国だということです。
しかも、日本の数学は戦後の教育で良くなったわけではない。
江戸時代からすでに高いレベルに達していました。
高濱:その蓄積は大きいですよね。
桜井:大きいです。
僕たちは数学大国の末裔なんです。
なぜ数学に強いかというと、その秘密は日本語にあるのではないかと考えています。
まず漢字が持っている力。
漢字はアルファベットに比べて情報量が多い。
漢字は絵ですから。
また、俳句はなぜ五七五なのか。
僕は茶道や華道、建築などもそうですが日本文化の根底には白銀比があると考えています。
黄金比ではなく、「白銀比」です。
「白銀比」とは、1対√2(約1.4)です。
直角二等辺三角形の3辺の長さの比である1対√2対1の1を5に置き換えると、
「5・7・5」
になります。
指折り数えることができる日本語と数の関係が非常に深いと気づいたんです。
松尾芭蕉の「しずかさや いわにしみいる せみのこえ」は1字1字数えることができます。
「This is a pen」は指折り数えられない。
母国語が数えられる言語だということが、日本の整数論が世界一である根本にあるのかもしれないということです。
川嶋:同じ漢字文化でも中国とは違うわけですか。
桜井:中国語と違って日本語には「音」読み以外に「訓」読みがありますからね。
日本は数学も宗教も中国から持ってきて、全部カスタマイズしました。
数学書も遣唐使の持ち帰った本の中に少し混ざっていて、それを一生懸命読み解いて改良していった。
例えば方程式。
中国の方程式は変数が1つなんです。
「x」だけの方程式を解いて中国人はそれでいいやと思っていた。
ところが、ところが、日本人は「x、y、z」と変数が複数あっても解けるようにした。
なぜかというと、中国は役に立つか立たないかの1点だけ、極めてプラグマティックです。
実利主義を徹底したからこそ中国文明というものができたと僕は思っています。
ところが、日本はそういう実利を超えて、興味関心から解いていくんです。
何かのためではなく。
それは数学の世界では自然な流れです。
社会に要請されてということならば「x」だけでいい。
一方、純数学的な思考を日本人は奈良時代くらいからしているんです。
明治時代にさらにドラスティックなことをしました。
日本の数学である和算は江戸時代に完成し、その時点での熱狂ぶりは世界の頂点にあったと言っていい。
明治政府も最初、日本の数学者たちに和算を教科書に使うと約束していた。
ところが、軍事力を高めるためにはドイツのマニュアルを読まなくてはならず、そのために洋算、ヨーロッパの横書きの数学が必要になった。
そういう軍事上の必要性から和算の廃止を決定した。
江戸の数学者は初めみんな反対したんですが、結局は国の説得に応じてヨーロッパの数学を翻訳しました。
しかも非常に短期間で。
他言語の数学をそんなに迅速に自国語に翻訳するというのは数学の世界では奇跡なんですが、それができたのも和算が非常に高度だったことを裏付けています。
■数学を面白がる日本人。江戸時代には一大数学ブームも
高濱:その話は非常におもしろいですね。
我われが数学大国の末裔だということがよく分かります。
例えば創刊50年以上になる「大学への数学」のようなマニアックな雑誌が出来上がるのもそういう土壌があるからですよね。
それは単なるカネ儲けじゃないというか、面白さを追求している。
日本の中学の入試問題は百花繚乱で面白い問題だらけです。
本当に世界に冠たるものです。
桜井:中学の入試問題は面白いですよね。
数学の問題に関連して言うと、『塵劫記』という江戸時代最大のベストセラーがあります。
数学書ですが、一家に1冊あったと言われているほどです。
桜井:江戸時代は平和な時代で商売が発達し、計算は普通の庶民にも必要なことでした。
その日常生活の中にある計算について、塵劫記にはたくさんの問題が載っている。
米や俵や枡などを使った生活に密着した問題で、それが非常に高度なんです。
その本が出たことで数学熱がさらに高まった。
みんなが問題を解きたいと夢中になったんですね。
将軍まで解いているんですから。
庶民から将軍まで数学に熱狂した時代なんてどこにもない。
日本の江戸時代後期だけです。
高濱:以前出演した「情熱大陸」というテレビ番組で紹介した中で一番評判がよかったのは、電柱の高さを葉っぱで測るというものでした。
直角二等辺三角形の直角を作る2辺の長さは同じという定理を利用したもので、葉っぱを折り曲げて45度の角度を作り、それを利用して電柱から45度の地点を見つければ、電柱からの距離が電柱の高さに等しくなるというわけです。
それと同じようなことが塵劫記に書かれていてビックリしたことがあります。
塵劫記では葉っぱではなく手ぬぐいか何かを使うのですが・・・。
葉っぱの話がウケたのも、日本人はやはり数学大国の末裔だからですね。
日本人は元来そういうのが好きなんですよ。
■子供の数学が伸び悩む背景に、孤立した母親の存在が
川嶋:我われ日本人は数学大国の末裔なのに、数学が嫌い、苦手だという人が多いのはなぜなんでしょう。
高濱:子供の数学が伸び悩む背景の1つに、母親の存在、意識があります。
文系の母親というのは、心の底では算数や数学はつまらないものだと思っていて、言葉の端々にそれが出るんです。
「算数なんてさっさと終わらせれば本をたっぷり読めるでしょ」
とか、そういう言い方をする。
イヤな算数、数学は早く終わらせちゃいましょうと、子供を洗脳しているわけです。
逆に理系の母親にも落とし穴があります。
自分の水準が高いから、
「なんでこんなことが分からないの」
というような言い方をして子供を算数嫌いにさせている。
子供は楽しく算数をやっていたはずなのに、そういう大人の言葉が芽をつぶしてしまうんです。
別にその母親はダメ親ではなく愛情に満ちているんですが、自分を客観的に見ていない。
そして不安定で大らかになれないという状況があります。
それは話し相手がいないからです。
男は仕事もあるし外で評価されたりして頑張れるんですが、母親たちは孤立し、イライラしています。
高濱:本来は夫が話を聞いてあげればいいのですが、どこか食い違ってしまう。
男は理詰めの話が好きだけれど、妻はそんなことを求めていない。
要点だけ言ってくれ、なんていうのも嫌いです。
女性にすれば要点だけで付き合ってどうするのと。
女性同士の会話では要点は必要ないですからね、そういう性差があることをお互いに理解して付き合えばいいのですが、なかなか難しい。
妻たちが「人としてどうなの」と感じている基準は、実は「人」ではなく「女性」の基準で、男には当てはまらないし、逆も真なのです。
『夫は犬だと思えばいい。』という本では、別の生き物だという痛感と異性への想像力を持つことで、双方幸せになれるよということを書いています。
川嶋:大半の女性はいわゆる数学的なものを拒否しながら生きているということですか。
高濱:拒否というよりも、つくりが違う。
男は論理が好きだし突き詰めたくなるけれど、女性はそうでもない。
数学が得意な女性もいますが、数学オリンピックなどでも賞を取るのは男のほうが多い。
男のほうが向いているということはあると思います。
女性が数学を学ぶことの面白さ、喜びを分かれば子供たちにも絶対にいい影響がある。
だから、母親たちを楽にすることで、結果として子供たちが生き生きとする仕組みを作りたいと取り組んでいます。
■7歳の子供に数学の根源的な疑問を抱かせるサイエンスショー
桜井:僕は大学生の頃から20年間、予備校で高校生を指導してきました。
しかし、教壇に立つたびにジレンマに襲われていたんです。
こうやって教えて東大や東工大に入ったところで、入った途端に数学の勉強をしなくなるということが分かっているわけですから・・・。
受験合格請負人というのも僕の本意ではなかった。
そういうことをする塾の先生はほかにいっぱいいるわけだから、任せておけばいい。
それで僕は塾にまで来て「勉強」することはないと生徒に話していたんです。
そもそも君たちは「勉強」という2文字を真面目に考えたことがあるのかと。
「勉める」ことを「強いる」と書く。
強いられるわけです。
僕は中学1年の時にそれに気づき、「勉強しない宣言」をしました。
「学習」と「勉強」は雲泥の差です。
英語には「learn」(学ぶ)と「study」(研究する)がありますが、
勉強に相当する英単語を僕は知りません。
要は勉強よりも学習を大切にするということです。
「学ぶ、習う」の先にはもっとクリエイティブな高度な世界がある。
「勉強」だけなんかしていたら絶対にクリエイトすることはできない。
僕はインテリを育てるつもりはありません。
職業に関係なく人間として数学を学ぶ幸せ、数学を学ぶことの面白さを知ってほしい。
数学は私たち人間の標準装備の能力なんです。
川嶋:それで今は講演活動で数学の楽しさを教えているんですね。
桜井:サイエンスナビゲーターとして講演活動を始めたのは2000年です。
サイエンスナビゲーターは今のところ日本に1人しかいません。
そしてサイエンスエンターテインメントショーを繰り広げているわけです。
桜井:僕は、文系の女の子、数学嫌いの女の子の気持ちを180度転換させる、数学を大好きにさせるようなことをやりたいと思った。
それで「数学」という言葉を使わないようにしました。
また、小学生に講演する時には算数ではなく、数学の世界を見せます。
しかも講演は100分。
普通ならば小学1年生は1時間も耐えられないと思いますが、喜んで聞いている。
映像と音楽で、映画を見ているように、時を忘れるように食い入るように見ている。
質疑応答では、例えば小学校1年生が
「先生、どうして足し算から勉強するんですか」
と聞いてくる。
非常にいい質問です。
それは世界が足し算でできているからだよと。
掛け算も割り算もすべて足し算に集約される。
だから足し算が一番大事だから最初に勉強するんですよと。
そういう本質をついた質問が小学1年生から出るんです。
見ている学校の先生や父兄はひっくり返る。
自分の子供がそんな数学の質問をするのかと。
それで学校の先生にはこういう話をします。
7歳の子どもがそういう根源的な問いをするというのは当然のことです、それが人間なんですと。
先生の中には算数の嫌いな生徒を半分バカにしたりする人もいるけれど、そういうことではいけません。
小学生だってれっきとした理性が働く人間で、聞いたことを覚えていて考えているんです。
■制度にしがみつく公教育。先生の間にも競争原理が必要
高濱:今の公教育に欠けているのは、面白さを伝えることだと私も思います。
分かった、よっしゃと思った瞬間の快感を知っている子供は、それを中心に勝手に動き出す。
答えが合っているかどうかだけに注目していると、結局面白くないという方向に行く。
だから私の塾「花まる学習会」では、
答えじゃなくて考え方が見えた瞬間こそ最高に面白いんだ
ということを伝える教育をやっています。
公教育についてさらに言いますと、算数、数学に限らず死んだ状態です。
仕組みを維持することに汲々として、免許制度にしがみついている。
変革するのは簡単だと思います。
人事制度に手をつければいいんです。
塾の先生はほとんど教員免許を持っていないですが、親や生徒から圧倒的に信頼されています。
なぜなら塾の先生は日々生徒の目にさらされ、生徒を魅了しなかったらアウトなので必死にやっている。
そこが学校の先生との差ですよね。
川嶋:みんな平等を是としていて、それはいいことだと思いますが、ちょっと行き過ぎています。
競争を避けるのは学校だけではなく、企業の中にも蔓延しています。
医療の世界でもそのようです。
日本の問題はすべてそこに集約されると思います。
競争否定というのはダメですよ。
だって競争することによってアイデアが出るのに、競争しなかったら先生たちも工夫しない。
しかし、そういう競争は教育界ではすごく反発があるわけですね。
高濱:ええ。それで何をやるかというと、時間数を変えたり教える内容を変えたりしている。
でも、それでは本質的なところは良くならない。
本気でやって子どもたちを伸ばしたことが評価されるようにしないといけません。
桜井:僕は先生たちの研修もやるんですが、先生自身がもう一度、数学に感動して、数学力をバージョンアップしていってほしいですね。
■世界は数学でできている。数学を伝える、使う、作るの3者が連携を
桜井:僕は今年、新しい高校数学「数学活用」の著者になりました。
これは、師である横浜国立大教授の根上生也がリーダーとなり執筆した教科書で、来年度から本格的に全国の高校で使われます。
それは、「人とともにある数学」を標榜したこれまでにない革新的な教科書です。
川嶋:数学は生活とかけ離れたものじゃないと。
桜井:そうです。
1ページ目のタイトルが「世界は数学でできている」です。
経済にしたって芸術にしたって物理学にしたって諸学問、諸芸術はみんな数学を使います。
ヨーロッパで大学の哲学科に進むには数学が必修科目ですが、日本は経済学部に行く人でさえ数学が入試の必修科目になっていない。
あり得ないことです。
川嶋:すべての学問の基本は数学だということですか。
桜井:学問だけではなく、世界は数学でできている。
これが基本です。
数学を伝える人、使う人、作る人、
これを数学の3つの「つ」と言っているんですが、この3つがすべてこれほどたくさん存在している国は世界中で日本だけです。
これだけ数学を伝える学校の先生がいて、数学を作る数学者がたくさんいて、これだけ数学を使って世界最高水準の製品を作る企業が日本にはある。
ただ残念なのは、3者の連携が取れていないせいで日本人が数学大国であることをみんなが知らない。だから僕はこれからもサイエンスナビゲーターとしてその3者をつなぐ仕事をしていきたいと願っています。
』
高濱 正伸(たかはま・まさのぶ)
1959年熊本県生まれ。3浪で東京大学入学、4年間留年した後、同大学大学院に進み修士課程修了。現在、花まる学習会、スクールFC、数理教室アルゴを運営
桜井 進(さくらい・すすむ)
1968年山形県生まれ。東京工業大学理学部数学科および同大学大学院卒業。東京工業大学世界文明センターフェロー。サイエンスナビゲーターとして子供から年配者までが楽しめるライブショーも行っている(撮影:前田せいめい、以下同)
『
朝鮮日報 記事入力 : 2012/12/11 23:56
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/12/11/2012121103158.html
韓国の理数学力は世界トップ 「好き」は低水準
【ソウル聯合ニュース】韓国教育課程評価院は11日、国際教育到達度評価学会(IEA)が世界50カ国・地域の小学4年と中学2年を対象に実施した2011年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果を公表した。
小4と中2とも世界最高水準の学力を維持したが、理数学に対する興味は依然として低かった。
韓国の小4は算数で2位、理科で1位となった。
中2は数学が1位、理科は3位だった。
小4は1995年調査と同水準だった。
韓国の小4は1999年と2003年、2007年調査には参加しなかった。
中2は2007年調査に比べ、数学と理科のいずれも順位を一つ上げた。
日本は小4の算数が5位、理科が4位、中2は数学が5位、理科が4位だった。
一方、数学が「好きだ」と答えた中2は8%、理科は11%にとどまった。
数学の国際平均は26%、理科は35%。
数学はスロベニアに次ぐ低水準で、理科は最低水準となった。
小4は算数が23%と最低、科学は39%と3番目に低かった。
TIMSSは4年ごとに実施し、世界の小4と中2の平均点を公表している。
今回、韓国は4335人の小4と5167人の中2がテストを受けた。
』
韓国の子供は理数系に強いが、「好き」「興味がある」というより、必要に迫られた点数スタイルということのようである。